これは、失恋って言うのかしら?
私の祖母はとてもきれいで、歳をとっていても品があり、若さだけではない別の美しさがある人です。
だから私はずっと、憧れてきました。
去年のバレンタインデーに好きだった人に振られ、ガッカリする私をみて、祖母はフフっと笑いました。
馬鹿にしてるでしょ?と祖母をギロリと見ると、またフフっと笑って、「ごめんごめん」と肩をすぼめました。
祖母が台所に立ち、フーフーフーと鼻歌を歌いながら夜ごはんの下準備を始めました。
台所の小さな窓から夕日が差し、祖母の白髪がきれいにキラキラ光っています。その後姿がすごくキレイで凛々しくって、祖母に失恋の経験なんてないんだろうなと思いました。
「ねぇ、おばあちゃん、失恋なんかしたことないでしょ?」
と聞くと、祖母は背を向けたまま、
「今のハイカラさんたちとは違って、失恋どころか恋も出来ない時代だったからね。」と、動じることなく、下ごしらえを進める祖母。
なんだか、悪いことを聞いてしまった気がして、自分の部屋に逃げ帰ろうとした時、祖母がふと、
「これも失恋って言うのかしら」と振り返りました。
「え?なになに?」と腰を上げ興味津々の目で祖母も見つめました。
「おじぃちゃんに先立たれたこと。」と私の目を見返してきた祖母。ドキッとしました。
祖母は包丁に手をやり、大根を切りながら話してくれました。
「今とは違って昔はね、自分で結婚相手を決めることもあまり出来なかったのよ。そんな時代でしょ。
16歳になった私に父が縁談の話を持ってきたの。
当たり前のように話は進み、結婚当日まで、おじいちゃんと会わせてもらう事もなかったのよ。
こんな事、周りでもよくある話だったし、別に仕方ないって覚悟決めてたの。
そして式の当日おじいちゃんに会ってね。無口で照れ屋で目も合わせてくれなくて。なんだか、心のどこかで我慢してた気持ちが爆発してしまってね。
ポロポロ涙を流したのよ。そしたら、おじいちゃんが慌ててしまって。そこらへんにあった新聞紙をどうぞって渡してきたの。
なんだか、腹が立ってね。その新聞紙で顔を拭いてやったわよ。そしたらおじいさんが大声で笑ったの。